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第11回
目薬からカビ臭?


子供の頃から不思議だったのが目薬の匂いです。
目薬をさした時、時々鼻を通って口に入る事があるのですが、独特の匂いを感じます。

そこで今回は、目薬の匂い物質を調べてみる事にしました。 分析に使用したのは、日本電子のヘッドスペースGC-MSという分析装置です。 目薬を1ml小瓶に入れて装置にセットすれば分析結果が出てきます。

分析の結果、メントール、ボルネオール、イソボルネオール、シネオール、カンファー等が検出されました。 これ等の物質は清涼感を付ける為の添加剤として使用されているようで、目薬の添加剤リストに掲載されています。 その中で検出された、ボルネオールやイソボルネオール、カンファー等が目薬の匂いを特徴付けている事が判りました。

さて、カビ臭で悪名高い2メチルイソボルネオール(MIB)もボルネオールやイソボルネオールと良く似た化学構造をしており、【図1】の様にメチル基が一つ多いだけです。 よく、カビ臭のMIBがどの様な匂いかを表現するのに、樟脳とか墨汁(墨)と表現されるのですが、化学式を見れば構造が近いので納得できます。


それでは、墨汁(墨)の匂いの正体は何でしょう。 香料の本でボルネオールを調べると、「匂いは土様のカンファー香を持ち、用途は、口腔剤・医薬・溶剤・墨などに用いられる」 と書かれていました。

墨?
墨を調べてみると、「ニカワ臭を消臭(マスキング)する為に樟脳を精製したものが使われている」 との事でした。 しかし、中国の墨にはこれらは使われていないとの事なので、日本人だけがMIBを嗅いで墨や墨汁をイメージしている事が判りました。 これでMIBのカビ臭→墨(墨汁)→樟脳と、一連の匂いがつながりました。
それにしても、先人達の知恵には何時も感心させられます。
(2010年5月)