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第5回
微生物に関わる者として Part2


大抵の食品は放置されればなにかしら変化が起こります。 この変化は大別して二種類に分けられます。
1) 食品自体の成分が物理的・化学的に変化する
2) 微生物が繁殖し、栄養分を分解される、代謝物が産生されることにより変化する

このうち、1)はよほどの事がなければ、多少悪くなる、劣化すると言った程度で、食用に耐えない、人体に悪影響を与える等と言うことはほとんどありません。 また、この変化には特殊な環境でなければ、比較的長い時間がかかるケースが多いと思われます。 ただし、2)は早ければ数時間、遅くても数日~数週間で、食用に耐えうる限度を超える(日常つかう言葉で言うなら腐る、変敗する)、場合によっては人体に悪影響を与える(毒性)など、非常にやっかいな問題となります。

その原因となる微生物は地球上のありとあらゆるところに存在しています。 土壌や水といった自然環境中はもちろん、動物や植物への寄生、最終的にはそれらを原料とする食品や加工品の原料にも、それらを処理している工場や設備、道具にも、そして処理している人間の体内、表面を含め、数えきれない数の微生物が存在しています。 ですから食品そのものにいた、または別の場所からから移ってきたものなど、いずれにせよ、特別な処理なしに微生物が存在しない食品などこの世には存在しないのです。

しかし、放置しても微生物による変化が起きない(起きにくい)食品も実際に存在します。 微生物は生き物ですから自分が生活できない様な場所では活動できません。 適当な温度、水、栄養源が最低限の条件と言えます。 当然の事ながら水気のないものは長持ちします。

人類は食品を保存する方法を、現在の技術が確立するはるか以前から、慣習的なものや偶然の発見をもとに行ってきました。 一つは食品の性質を変え、微生物が居ても活動できない状態にすること。 乾燥、塩蔵、砂糖漬け、燻製(焼き菓子、揚げ菓子、乾燥した珍味、塩漬け、古漬け、醤油、ジャム等)は食品中の水分(水分活性)を減らすことにより微生物に水を与えない。 また、酸っぱいもの(梅干し等)、その酸自体で微生物を殺してしまうか、発育を抑えています。

近年、健康志向から加工食品の低塩化、低糖化が進んでいますが、これらの食品ではその結果として微生物にとっては発育しやすい環境となるため、冷蔵が必要となる、賞味期限が短くなる、などのデメリットも生じており、食品メーカーにとっては悩みの種になっているものもあります。

もう一つは、食品中に微生物がいない状態を作り出し、それを維持することにより食品の長期保存が可能となります。 いわゆる殺菌です(厳密には菌を取り除く除菌という技術も存在します)。 缶詰や瓶詰、レトルトパウチなどの食品が冷蔵や冷凍せずに長期保存可能なのは、食品(中の微生物)に十分な加熱を行い、微生物がいない状態にして、さらにその後外気と遮断することにより、開封されるまで微生物が混入しない、という根拠に基づいています。

一方、ヨーグルトや塩辛等の「発酵」食品も微生物の作用によって元の食品から変化したものです。 変化した食品が味覚的に良くなる、栄養価が増すなどは「発酵」、口に合わない、人体に悪影響を与えるものは「変敗」、と言うことで、これは紙一重というより、微生物の立場から言えば、それぞれの微生物の種類が違うのは事実ですが、微生物がそこで生活した結果に他ならず、人間の都合だけで分けられているものです。

発酵食品は微生物抜きでは存在しません。 ビールもワインも当然の事ながら酵母によるアルコール発酵の産物ですから、この恩恵には感謝しなければいけません。 敵でもあり、大いなる味方でもある微生物ですが、食品容器メーカーという仕事柄、発酵食品は出来上がった食品と割り切って、その後の長期保存のために微生物を制御することが最終目標になってきます。 彼らに意思があったなら、都合のいいことばかり注文するな、と 「発酵についてはストライキを敢行する」 と宣言されそうな気もする今日この頃です。

(2006年10月)