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第6回
黄色い花の物語?


専門は異臭分析ですが、いつも悪いにおいだけを嗅いでいる訳ではありません。 においには非常に興味があるので、散歩途中でも、通勤途中でも、草木の葉っぱや花のにおいを嗅いでいます。 桜やモモの葉のにおい、ミカン等柑橘類の葉のにおいには、いつもリフレッシュさせてもらっています。

この癖が高じて、一度とんでもない事に遭遇した事があります。
それは、ドイツへの海外出張時に起こりました。 ライン川の畔を散歩しているときに、ふといつもの癖で葉っぱを摘んで鼻にかざしました。 シソの様な葉だったのですが、においが無いので残念と捨てたとたん、摘んだ手と鼻が、突然蜂に刺されたようにチクチクしだしました。 洗っても拭いても、チクチクは衰える気配はありません。 その日は最悪のライン川河畔の散歩となってしまいました。

ホテルに帰って、デジカメの拡大モードでその葉の表面を眺めてビックリ、小さな棘が無数に生えているではありませんか! その時、ドイツの誰もが手で触れない葉っぱであった事が判りました。 知らないとは恐ろしい!
みなさんも、異国や知らない場所では気をつけて下さい。

帰国後色々調べてみると、その草はイラクサ(ネトル)で、葉っぱに触ると棘が刺さり、蟻酸が発射されてチクチク痛む事が判りました。 こんな葉っぱですが、ヨーロッパではアレルギーに効く薬草として重宝がられているようです。

さて、桜の葉ですが、葉を揉んでにおいを嗅ぐと、杏仁豆腐の様なにおいがしてきます。 このにおいは、ベンズアルデヒド のにおいです。 桜餅の葉のにおいは、クマリン のにおいです。 クマリンは、葉を漬け込まないと生成してきません。
ベンズアルデヒドとクマリンのにおいは似ていますが杏仁豆腐と桜餅の差があります。


5月の初めに、通勤途中で黄色い花が咲いているのが目に入ってきました。
この花の名前は「カロライナジャスミン」 原産地は、北米南部~グアテマラ原産で、
観賞用にフェンスに絡ませたり、ポールに仕立てたりして、
日本でも広く栽培されている様です。花期4~6月。
鮮黄色の美しいラッパ状の花を多数着け、そして、周囲に芳しい香りを漂わせます。


「ジャスミン」とは植物学的な関係はなく、アメリカのノースカロライナ州、サウスカロライナ州に生えている、ジャスミンのような香りがする花、ということからこう呼ばれるようになったそうです。 英名で"Yellow Jasmine"とか"Carolina Jasmine"などと呼ばれているので、このことからモクセイ科ソケイ属植物「ジャスミン(Jasmine)」の仲間と思っている人もいるらしいのですが、実際にはモクセイ科ではなく、有毒植物が多く含まれているリンドウ科やキョウチクトウ科などに近縁の「マチン科」に属する植物だそうで有毒植物です。

(カロライナジャスミンの名前の由来ですが、外国では、良い匂いがすれば「ジャスミン」と付けるようで、タイ米も「タイジャスミンライス」と呼ばれる種類がありますが、ジャスミンティーの様な匂いがする訳ではありません。 香りが良いと云う意味で付けられた名前です。)

いつもの癖で、この花の匂いを嗅いだところ、まさしく「シッカロール」(和光堂のベビーパウダー)の匂いがしたので、それがどういう成分なのか、興味が湧き今回調べました。 しかし、調べてみると、シッカロールの匂いは、別の植物の匂いから作られた香料を原点としている事が分かりました。 その植物は、ヘリオトロープと云う花で、この黄色いカロライナジャスミンの匂いの中に、シッカロールの匂い成分が入っているとの情報は見つかりませんでした。


日本初のベビーパウダーですが、1906年和光堂から発売された「シッカロール」だそうです。 なつかしい、シッカロールの香りの元は、「ヘリオトロープ」 という植物の香りで、このヘリオトロープは日本に初めて入ってきた香水と言われています。 また、ヘリオトロープの香りの成分は、ヘリオトロピン です。 このヘリオトロピンですが、今から120年以上前の1880年代には、既に石油から合成する事に成功しています。 ですから現在は、ヘリオトロープの花からこの匂いの成分を採る事はない様です。 なので、いま、シッカロールや化粧品に使われているヘリオトロピンは全て合成品です。

ヘリオトロピン はバニラの様な甘いにおいがすると一般的に云われていますが、化学式で眺めてみると少し納得できました。 ベンゼン環にアルデヒド基それと酸素(O)の付く場所が同じです。 ベンズアルデヒドクマリン、バニラの香りの バニリン と正露丸のにおいの グアヤコール、においと分子構造、どこかにきっとこの神秘な世界を解明する鍵がかくされているのでしょう。






(2008年6月)