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第22回 |
ワインの異臭とダダチャ豆の香り - アセチルピロリン |
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ワインの製造段階で、乳酸菌のLactobacillus hilgardii が、ワインのネズミ臭(Mousy off-flavor)を生成することが知られています1)。 このネズミ臭の原因物質の一つが 2-アセチル-1-ピロリン (APy; 2-Acetyl-1-pyrroline) という物質で、ダダチャ豆特有の、ポップコーンの様な臭いの正体です。 良い香りと言われているダダチャ豆の臭いも、存在する食品が違えば異臭となる良い例です。
APyの臭いは、パンの耳、ポップコーン、シリアル、タイ米、マウスの尿などと表現されています。 これら以外でも、アイスクリームのコーン、コーンスープ、トウモロコシ、フライ、天ぷらなどで、人が美味しいと感じる臭いとして無くてはならない物質です。
APyは、プロリンなどのアミノ酸から生成します2)。
以前、異臭分析でAPyと思われる物質が検出されたので、試薬として販売されていないか探したのですが、日本では手に入らないことが判明しました。
仕方なく、合成しようと文献3) を調べると、パンダンリーフ(写真1)というタイの香草から抽出する方法がありました。 このパンダンリーフ(タコヤシの葉)は、タイ料理に広く使われているようです。 香りの弱いタイ米と一緒に炊くと香りが強く美味しく仕上がるようです。 |
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パンダンリーフ (タコヤシの葉) |
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ということで、冷凍のパンダンリーフを購入しました。 確かにダダチャ豆の香りが強く感じられました。 タイ米を美味しくする方法を手本に、冷凍の枝豆にパンダンリーフを添えて茹でてみました。
なんと予想通り、ダダチャ豆風の香りがして、普通の枝豆が美味しくなりました。 さて、本題のAPyですが、文献通り抽出しました。 抽出液は、強いダダチャ豆の臭いが感じられたのですが、実際に分析してみると図1の様に、APyのピークは小さく残念ながら分析用の試薬として使用できないことが分かりました。 臭いは強く感じられるのですが、ピークは小さく、APyの閾値の低さ(においが強い)が想像されます。
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図1. パンダンリーフのGC-MS分析結果 |
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結局APyをパンダンリーフから抽出することはあきらめ、他の文献4) を調べて合成することにしました。 合成したAPyの臭いはダダチャ豆やポップコーンの香りそのものでした。 同じような臭いは、図2のその他の化合物でも感じることができます。 ii. のアセチルチアゾールは、購入可能な試薬ですので購入すれば臭いを嗅ぐことができます。 においの強さは若干弱いですが、APyと同じ臭いを嗅ぐことができます。 これら物質の構造式と水中閾値2) を図2に示しました。
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図2. ポップコーン臭物質の構造式と水中閾値 |
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i. アセチルピロリン(APy) |
ii. アセチルチアゾール |
iii. アセチルテトラヒドロピリジン |
iv. アセチルピリジン |
水中閾値:0.1ppb |
水中閾値:10ppb |
水中閾値:1.6ppb |
水中閾値:19ppb |
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臭いの閾値は異なりますが、人の嗅覚は、物質の構造が近い物質を同じような臭いと感じるようです。 また美味しさに関しても、異臭物質と同様に閾値の低い(においが強い)物質が重要であることも理解できました。
1) J. Agric. Food Chem. 2006, 54, 6465-6465
2) Food Chemistry 4th (2009, Springer), 367-371
3) J. Agric. Food Chem. 2005, 53, 398-402
4) J. Agric. Food Chem. 1983, 31, 823-826 |
【参考食品】 ネスレ社「Kit Kat」 東北限定 ずんだ風味
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(まさしくAPy臭!) |
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(2012年3月) |
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